懐かしい匂い
2007.09.15
作:石山
俺たちは,従兄弟同士で仲良しだ.俺は昔から男が好きだった.でも,この2歳年下の従兄弟の花恵の事は好きで,自分の事のように気になる存在だった.しかし,今俺たちは秘密を持っている.
「足痛む?」
それほどではない.俺はそう言おうとしたが,階段を踏み外した時に痛めた足は時折ひどい痛みを発する.
「ごめんなさい・・・」
そう言いながら,大の男の俺がおろおろとしている.俺はセーラー服のスカートを正すと松葉杖をつかんだ.
「そろそろお母さんがくるね・・・」
一緒に学校から帰っている所,長い階段でバランスを崩して俺たち二人は転げ落ちてしまった.転げ落ちたすぐ側に診療所が有ったのは助かった.助かったのだが,俺は花恵に,花恵は俺になってしまっていたのだ.俺の体は無事で,花恵の体,今の俺の体が足をねんざしてしまっていた.もうすぐ,花恵の母親,俺のおばさんが迎えにくる.
俺の母の妹であるおばさんが車でやってきた.俺の様子を見て大きくため息をついた.
「もー,この子は心配かけて・・・」
そういうとおばさんは俺の隣に座って俺の足を包帯の上から優しく触れてくる.
「ごめん,なさい」
「ごめんなさい・・・」
所々ほつれてしまった学生服の花恵が俺と一緒に謝っている.しかし,何故こんなに・・・落ち着いているのか.花恵は取り乱しもしていないし,俺もなんだかおばさんに肩を抱いてもらって安心している.なんだろう,この気持ち.
「さあ,帰りましょうか.真一君も一緒に乗ってくわよね」
車に乗るとおばさんが話しかけてきた.
「そういえば覚えてる? さっきの階段.昔あなた達同じように転げ落ちたのよ」
知らない.そんなの覚えていない.
「あの時も花恵が怪我しちゃったんだけど,真一君取り乱しちゃって,わんわん泣いて私にすがりついてきたのよね」
しかし,なんだかその辺りの記憶が曖昧だ.あまり覚えていない.
「あ,あの時は,びっくりしてて・・・」
花恵は記憶があるのかな.俺は,良く思い出そうと頭をひねってみる.すると隣からおばさんがぺちっと手を叩いてきた.
「あーら,花恵,また指なんか噛み始めて」
あっ,つい・・・噛んでしまった.しかし,運転しながら手を出すのも危ないよ,おばさん.
「癖なおったと思ったのに,もうダメよ」
花恵も爪を噛む癖もってたのか.
「あの・・・」
その時,花恵が後部座席から声をかけてくる.
「なーに,大丈夫よ.このくらいの怪我でお嫁にもらってなんていわないから」
おばさんが冗談を飛ばす.花恵は黙ってしまった.
家に上がる事になった.もちろん,花恵の体の俺は花恵の家へと入らなければならない.そうではなくて,俺の体の花恵も家に上がるようにとおばさんに勧められた.俺もその方が心強い.俺は花恵の部屋のベッドに座る.飾り気が無いが匂いが女の子の部屋だ.
「お茶入れてくるわね.真一君は,花恵見ててね」
見てもらうほどひどくはないはずなのだが.先ほどから花恵がうつむいて眼を見てこない.やはり,女が体を男に自由にされるのは困るだろう.俺は女には興味ないと花恵には告白してるんだが,それでも安心できはしないだろう.
「あのね・・・」
俺が思案していると花恵がやはり眼をそらしながら話しかけてきた.
「実は元に戻ったんだよ・・・」
「はん?」
「10年前,私たちはあそこで入れ替わったの.真一・・・いえ,花恵ちゃんは幼くて理解できなかったみたいだけど.本当は私が真一なの」
俺は戻ったのか? いや,そんな・・・.いや,そんなわけは・・・.
俺の疑問はなかなか晴れない.晴れる訳が無い.
とりあえず俺は自分の体を抱きしめてみた.なんだか,いい匂いがした.とりあえず,男好きでも白い眼で見られないと変な安心の仕方をしていた.これからどうなるか分からないが,あまり不安は無かった.
あとがき
初の正真正銘の入れ替わりです。入れ替わった上に育ってしまったという。そんな話です。即興なので1時間くらいで書きました。
石山